はじめに
みなさんの得意とする分野、専門分野は何ですか?
僕は教員ですので、専門分野は「教育」です。
近年、これからの時代に求められる人材像が急激に変化しつつあり、「教育」にも変化が求められる局面となっています。
しかし、教員には「ビックデータ×AI」「5G」「量子コンピューター」などの専門的な知識がありませんし、大半の場合、「ビジネス」の経験もまったくありません。
教員が「世間知らず」とはよく言われることですが、確かに社会やビジネス、テクノロジーについての知識をほとんどもち合わせておらず、新しい時代を担う人材を育てる場としては、少々厳しい状況にあると言わざるを得ません。
また、行政主体で「プログラミング教育」や「外国語教育」が導入されても、現場としては「突然そんなこと言われても…」というのが正直なところでしょう。
しかし、ここが難題なのですが、テクノロジーの専門家や各分野のドメイン知識(専門分野に特化した知識)をもち合わせた人にとっても、「教育」は専門外であり、立ち入ることが難しい現状があります。
ここで必要になってくるのは、
- 「教育」と「各専門分野」を結びつける”坂本龍馬”的な人材
- 「教育の専門性」と「教育以外の分野のドメイン知識」の両方をもち合わせた人材
でしょう。
大量生産・大量消費といったN倍化の時代から、GAFAMやBATHといったIT系の企業が大きな価値を生み出す超スマート社会(Society5.0)へ向かうこれからの時代には、ある分野に特化するのではなく、「教育×専門分野」「専門分野(テクノロジー系)×専門分野(例外なくすべての分野)」といった”かけ算”によって新たな価値を生み出すことが求められています。
大きく方向を転換する、まさに”ターニングポイント”が、今ここに始まりつつあるのです。
教育業界のかけ算の壁「教育はビジネスではない」
教育にテクノロジーなどの専門的な人材を迎えるにあたり、第一の壁となるのは、
「教育はビジネスではない」
ということです。
ある分野に特化する民間企業との連携を図るとき、企業側に利益が生じるビジョンがなければ実現可能性は低くなってしまうでしょう。
なぜなら、ビジネスの根本的な目的は「営利」であるからです。
一方、教育は「営利」求める営みではありません。
ビジネス側からすれば、「教育」は短期的にはお金にならない業界ですし、そこへの投資が回収できるできる保証はありません。
「教育」側からすれば、教員は公務員ですから「全体の奉仕者」として中立性が要求され、特定の企業の営利のために動くことが難しくなっています。
つまり、時代の最先端をいく企業と「教育」には連携を図りづらいという構造的な問題が存在しているのです。
実際には、「〇〇教室」などといった形で出前授業を行ったり、教員に向けた講演なども行われたりしていますが、「社会の在り方」が大きく変化する局面においては、そういった単発のプログラムではなく、大きなシステムの構築が必要なのです。
そこで重要なポジションとなるのが、「教育」と他の分野をつなげる橋渡し的(坂本龍馬的)な人材です。
しかし、個人としての運動論ではなく社会全体としての大きな運動論にしていかなければ、「新たな時代に備える」という意味では不十分なものとなってしまいます。
「教育」に精通し、何らかの分野の「ドメイン知識」をもち合わせた人材を育成するシステム作りが求められているのです。
もしくは、何らかの分野の専門性がある人材を「教育」にコミットさせるようなインセンティブが行政主導であってしかるべきなのです。
それはなにも、完全な教育業界への転職という形ではなく、副業的にかかわることができるような、閉ざされた「教育業界」を、「開いて繋げる」という発想が、今求められているのです。
日本はリソース配分として、医療・福祉の比重が非常に大きな国家ですが、そこから数%でも教育やこれからの時代を担う研究・開発分野に配分し、「未来に賭ける(bet on the future)」ことが喫緊の課題なのです。
まさに、「チーム日本」としての取組が必要なのです。
この課題を先延ばしにすればするほど、手遅れになってしまう可能性は高いでしょう。
”かけ算”で広げる「可能性」
これからの時代に必要なのは、新たな技術が生まれる「フェーズ1」的な議論ではなく、それらが認識され活用・応用され始める「フェーズ2」、それらを組み合わせて複雑な「エコシステム」が生まれる「フェーズ3」的な議論です。
〈それぞれのフェーズの例〉
フェーズ1…電気の発見
フェーズ2…電気の技術をもとに家電などが発明される
フェーズ3…新しくできた機械や産業がつながりあって、「インターネット」や「新幹線」など複雑な「系」が生まれる
新たなテクノロジーが生まれるフェーズ1は終了し、 「ビックデータ×AI」「5G」 が大衆に認知され、それがどのように活用されるのかというフェーズ2、フェーズ3的な議論や挑戦がスタートするのです。
「とはいっても、自分にはあまり関係のない話だな」
と思ったみなさん。それは違います。
なぜなら、「テクノロジーをどのように取り入れ、可能性を解き放つか」という議論は、どの分野においても例外ではないからです。
あなたの学ぶ分野、働く業界にはテクノロジーによって解き放たれる”可能性”は隠されていませんか?
「フェーズ2」「フェーズ3」の議論には、
「専門分野(テクノロジー系)×専門分野(例外なくすべての分野)」
という発想が不可欠なのです。
その分野にかかわる人にしか気づくことのできない問題意識は、世の中に相当数存在するのではないでしょうか。
テクノロジーをどのように活用し、どのような未来像を描いていくのか。
複数分野をつなぎ、どのようなエコシステムを築いていくのか。
個人としても、そのような視点をもっていくことが重要な時代なのです。
まとめ
今回は、「教育×専門分野」で未来に賭けることの重要性と、「複数分野のかけ合わせ」によって可能性を広げていかなければならないことについてまとめてきました。
そして、ここが重要なポイントなのですが、「複数分野のかけ合わせ」は企業や大学などの「組織レベル」だけではなく、「個人レベル」でみても大変重要な視点であることを、わたしたちは理解しておかねばなりません。
必要なのは、自分の専門分野や業界にとらわれることなく、「かけ算」の発想をもって学び、「開いて繋げる」という発想をもって行動していくことなのです。
「教育」という1つの分野では勝負できなくても、「教育×プログラミング」など、複数分野をかけ合わせることで、数少ない貴重な人材になることができるのです。
慣れ親しんだコンフォートゾーンにとどまり続けるのではなく、専門外へ一歩踏み出してみませんか?
それでは!ありがとうございました!
【参考文献】
「シンニホン」安宅和人 2020
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