はじめに
みなさんは、ホセ・ムヒカを知っていますか。
彼は、元ウルグアイ大統領であり、”世界一貧しい大統領”として有名な人物です。
なぜ、”世界一貧しい”のかといえば、
- 水道の通っていない”倒れそうな農場”に住んでいる(大統領在任中も)
- 移動に大統領専用車を使わない
- 執事や家政婦は雇っていない。警備も警察官が2人だけ
- 給料は日本円にすると約131万円。その90%を寄付し、残りを貧しい子どもたちを受け入れる農業学校をつくるために貯金する
- 月の生活費は1000ドル程度
- 確定申告した際の個人資産は愛車分の約22万円のみ
という、なんとも一国の主らしからぬ生活を送っていることから、そのように呼ばれるようになったといいます。
それでいて、
「わたしは自分が貧しいとは思っていない」
と語っているのだから、彼の生き方には本当の”豊かさ”へのヒントが隠されている気がしてならないのです。
今回は、そんな彼が2012年に国連の「持続可能な開発会議」の中で語った”最も衝撃的なスピーチ”を取り上げ、わたしたちにとっての本当の”豊かさ”とは何か、みなさんとともに考えていきます。
10万時間もつ電球は作ってはいけない
”最も衝撃的なスピーチ”は、全体としてわたしたちの社会や常識に一石を投じる、非常に示唆に富んだ内容ですが、その中でも特に、誰もがイメージしやすく”豊かさ”について問い直すきっかけとなる部分をご紹介します。
それは、
「本当は10万時間もつ電球を作ることができるのに、1000時間もつものしか売ってはいけない」
というものです。
一体どういうことでしょうか。
これを理解するためのキーワードは”経済”です。
わたしたちの暮らす社会の経済は、多くのものを生産し、それを消費することで回っています。
このサイクルが停滞すると、不況が訪れるわけです。
つまり、あまりに長い時間使い続けられる製品を生み出すことは、その商品がもう売れなくなる、そして産業や社会が停滞することを意味するということです。
現在のシステムでは、無尽蔵に富を生産し続けることが、ほぼ唯一の道であるかのようにも思われます。
しかし、”持続可能性”という点では、このシステムには、地球(厳密には、私たちの生存するための環境)が持ちこたえられないのです。
だからこそ、世界は2030年までの具体的な目標をSDGs(持続可能な開発目標)という形で定め、17の目標に向かって取り組んでいるのです。
ただし、SDGsが「持続可能な”開発”目標」であるということには少々注意が必要です。
”開発”や”成長”を前提とする道は、今や私たちに残されていないかもしれないのです。
わたしたちの進むべき方向
果たして、わたしたちは何を目指して進んでいくべきでしょうか。
先日、TV番組でとある技術が政府や東大がかかわって研究されているという特集を目にしました。
それは、
発生した台風のデータを細かく分析し、温度の高い上昇気流が起きている部分に大量の氷を投下することで台風の勢力を弱める
というものです。
地球温暖化の影響で、近年は大規模な豪雨や台風による被害が増加しています。
気象庁によれば、このままの状況が続くと60年後には平均気温が4℃近く上昇すると発表していますし、環境省は2100年には最高風速90mの台風がやってくることを予測しています。
風速90mといえば、新幹線の最高速度並みですし、鉄筋コンクリートも含めて建物が吹き飛ぶ威力です。
これに対する備えとして、前述のような技術を研究・開発することは確かに重要ですが、そもそもの原因解決にはまったくなっていないということには注意が必要です。
風速90mの台風に備えたDisaster-readyな都市空間を作ることも大切なのですが、本当に必要なのは地球温暖化を食い止めること、つまり二酸化炭素排出量を限りなく0に近づけることなのです。
果たして、そういった局面において”開発””成長”は達成しうるでしょうか。
わたしたちにはこれ以上の物質的な”豊かさ”が必要なのでしょうか。

「生産者の使命は貴重な生活物資を水道の水のように無尽蔵に提供し、貧を除くことだ」
この言葉は、「経営の神様」と称される、パナソニック(旧松下電器産業)の創業者・松下幸之助が松下電器の創業にあたり、宣言したもの(通称:水道哲学)です。
現在、わたしたちは人類史上最も生活物資に恵まれ、多くのものが捨てられる世の中に生きています。
このような局面においては、「水道哲学」が示しているような生産者(ビジネス)の使命はすでに達成された可能性が高いといえます。
近年の”低成長”は、なにも”衰退”を意味しているのではなく、わたしたちが長い坂道を登り切り、”高原”にたどり着いたことを意味しているのではないでしょうか。
そして、わたしたちの正しい反応は、”衰退”を悲しむことではなく、”高原”への到達を祝福することではないでしょうか。
まとめ
今回は、”世界一貧しい大統領”ホセ・ムヒカの国連でのスピーチを取り上げ、私たちの本当に進むべき方向について考察してきました。
本当の”豊かさ”とはなにか。
「わたしは貧乏なのではない。質素なだけだ。」
これもまた、ホセ・ムヒカの言葉です。
物質的に”豊か”ではなくとも、それは”貧しい”ということではない。
この言葉には、彼からのそんなメッセージが込められているのだと思います。
本当の”豊かさ”とは?人生の”幸福”とは?。
”経済”を回すために無限の消費を繰り返すこと、物質的な”豊かさ”を求め続けることが、わたしたちの本当に求めている”幸福”なのでしょうか?
この機会に問い直してみませんか?
それでは!ありがとうございました!
【参考文献】
「世界で最も貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉」佐藤美由紀 2015
「ビジネスの未来」山口周 2020
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